伊奈子先生の『泥濘の食卓(ぬかるみのしょくたく)』を読んだ感想ブログです。
主人公はパート先の店長と不倫関係を続ける25歳の女性。
若くて可愛らしい彼女だが、自己肯定感が低すぎるために相手に尽くしてしまう性格でした。
そんな彼女の愛情は次第に常識から外れ始め・・・
こちらの作品を読んだ感想についてまとめました。
『泥濘の食卓』作品概要
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タイトル:泥濘の食卓
著者:伊奈子
出版社 : 新潮社
発売日 : 2021/6/9(1巻)
登場人物
●捻木深愛(ねじきみあ)
田舎町のスーパーでパートとして働いている25歳。店長と不倫関係にある。
●那須川店長
深愛の勤務先スーパーの店長。妻と息子がいるが、深愛と関係を持つ。
従業員にも家族にも優しいが、外見はごくごく普通の中年男性。
●店長の妻
昔は明るい美人だったが、鬱のため外見がだいぶ変わってしまった。
●那須川ハルキ
店長の息子で高校生。学校での悩みを抱え途方にくれている所を、偶然居合わせた深愛に励まされた。
●尾崎ちふゆ
ハルキの幼馴染。一見、可愛らしいがハルキに対する執着心が強い。
●深愛の母親
夫が亡くなって8年目。病院勤務。躾に厳しく、今でも深愛に対するダメ出しが多い。
あらすじ
田舎町のスーパーで働く25歳の女性、深愛(みあ)は、パート先の店長と不倫関係にあった。
深愛は自分に自信がなく、そんな自分に優しくしてくれる店長を心から愛している。
そんなある日、店長の口から別れを告げられてしまう。理由は妻の鬱。
ショックを受ける深愛は、店長の悩みを解決すれば二人の関係は修復すると考えたのです。
こうと決めた目的に真っ直ぐ進む深愛。
そんな深愛の行動を知らず、引きずり込まれる店長家族の行く先とは──?
この作品がお勧めできる人・できない人は?
▼お勧めできる人▼
・ドロ沼に耐性がひと
・普通のドロ沼では物足りないひと
・湿っぽくて暗い話が嫌いじゃないひと
・物語が好みなら絵の出来は関係ないひと
▼お勧めできない人▼
・サバサバしているひと
・ねちっこいタイプに苛々するひと
・デッサンの狂いが気になるひと
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『泥濘の食卓』1巻の感想(ネタバレ含みます)
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【注意】ここより以下はネタバレ含みます!
主人公の愛が重すぎる
想像してみて下さい。あなたは好きな人から、人生で初めてアクセサリーをプレゼントされました。
ところがそれはピアス。あなたはピアスを入れる穴が開いていません。
その時あなたはどうしますか?
主人公の深愛(みあ)は、開ける予定の無かったピアスホールを安全ピンで開けました。
それも大好きな店長が負担に感じないよう「前から開けるつもりだった」と言葉を添えて。
これが同僚の女性達であれば「私の耳にピアスの穴があるかどうかも知らずに買ったってこと?」「他の女と間違ってないでしょうね!」等と言い返したかもしれません。
深愛のとにかく相手を優先する性格がよく表れていると思いました。
良い子ほど不倫に沼ってしまう
だいぶ昔の話ですが、Twitterで「不倫してしまうのは純粋な良い子タイプが多い」という意見に賛否両論のコメントがついているのを見かけたことがあります。
相手に妻子がいるのを知ったうえで交際している時点で「いい子のわけが無い!」と反論する男性の多かったこと。
でも、ちょっとそれは違うんだよなあ~と大半の大人女子は思っていたでしょう。
もちろん刺激のある恋愛を楽しみたい肉食女子タイプもいるとは思いますが、そういう女子は生活に疲れたごくごく普通の既婚男性なんて相手にしませんよね。
一般の既婚男性と恋愛関係に沼ってしまうのは、お人好しで、親切で、いわゆる「あの子めっちゃいい子だよね」と同性から言われるような女の子。
急なシフト変更を嫌な顔せず変わってあげる、深愛のような女の子です。
相手に親切にするのが当たり前、そんな女の子が交際した相手を簡単に切り捨てることはありません。
深愛の欠点
そんな良い子の深愛ですが、彼女には深い闇がありました。
両親からとても厳しく育てらた彼女は、褒められた経験がありません。
むしろ良いところが無いから人の役に立つことが、あなたの生きていく道なのだと言われ続けてきました。
就職に失敗した深愛はスーパーのパートとして働き始めます。
そこで初めて自分を認めてくれる店長と出会い、どんどん深みに嵌ってしまったというわけですね。
深愛の母は毒親と言い切るには微妙な感じ
深愛に手をあげるような厳しい父親が亡くなり、深愛は母と二人で暮らしています。
25歳という立派な大人の深愛ですが、門限は21時と早い時間に決められています。
娘に対して料理もあまりできない、就職も失敗する、そして何より器量が悪いことを指摘することが多々ありました。
全体的な雰囲気は違いますがパーツ自体はわりと似ているにも関わらずです。
娘に対してダメ出しばかりする母親ですが、そのくせ「二人の生活を気に入っている」と言うところも複雑です。
また、深愛の部屋に入る時はノックするとか、娘の服にアイロンかけてあげるなどの母親らしさはあるようです。
毒親傾向があるのは間違いありませんが、娘のことが好きなのか?それとも気に食わないのか?その辺りが興味深いと思いました。
泥濘の食卓1巻の結末は「どうなっちゃうの?」でした
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店長との幸せな未来を目指す深愛は、那須川家にどんどんと入り込んでいきます。
そちらの展開も気になりますが、それよりもっと気になるのが店長の息子ハルキの幼馴染『ちふゆ』です。
深愛は愛する店長のためを思って行動していますが、ちふゆはハルキから拒絶されても全く耳に入っていません。
この二人が出会ってしまったらどうなるのか?
対決すればドロ沼展開が確実ですし、タッグを組んだらそれはそれでどうなるのか見てみたいですね。
『泥濘の食卓』2巻の感想(ネタバレ含みます)
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【注意】ここより以下はネタバレ含みます!
ちふゆと深愛はどちらが幸せなのか
ハルキの幼馴染のちふゆは、不動産持ちの家系に生まれているため、子どもの頃から裕福な暮らしをしています。
店長家族が住んでいるマンションですら、ちふゆの家が持ち主です。
ちふゆの父母は仲が良く、両親はちふゆを大切に育てています。
金銭的な不自由もなく、親から愛されて育っているちふゆ。
一方の深愛は厳しい父親に育てられ、その父も失い、性格がキツい母親から厳しく管理された状態での二人暮らしです。
交際相手の店長は既婚者のため、不倫関係でしかありません。
また店長のためにパートを辞めた深愛は無職になってしまい、収入が入る見込みはありません。
どう考えても立場的に、深愛は不幸で、ちふゆの方が恵まれていると思います。
幸せそうなのは深愛
そんな不利な状況の深愛ですが、明らかにちふゆよりも毎日が楽しそうです。
1巻では深愛の得体のしれない気持ち悪さが際立ちました。
2巻ではそれを忘れてしまうほど、ちふゆの不幸せそうな感情が画面からどんどん溢れてくるのです。
一番不幸なのはハルキ
ハルキはイケメンの陸上をやっていた爽やか少年です。
そこまで裕福ではないにせよ、ごくごく普通の家庭環境で育っていくはずでした。
彼の不幸はイケてる男子だったことと、たまたま親同士の仲が良くて、ちふゆと接点があったこと。
普通であれば相手から拒絶されれば失恋したと思うはずですし、好きな相手が学校のみんなから嫌われて苦しんでいたら助けたいと思うでしょう。
拒絶されても諦めません。好きな人が孤立しても気になりません。
だって社会から孤立しても、自分と結婚すれば働かなくてもお金には困らないので社会と関わる必要はないからです。
相手のために動く深愛と、自分の都合を押し付けるちふゆの対比が面白い作品だと思います。
店長の奥さんの今後だけが心配
深愛は店長のために、身分を偽ってうつ病の奥さんのサポートを続けます。
困ったとき、苦しいとき、親身になって返信してくる深愛に当然ですが心を開き始めました。
二人がすっかり打ち解けて一緒に料理を作る場面だけ切り取れば、幸せそうなシーンでした。
深愛は他人から必要とされたい、母親から愛されたかったという心の飢えがあります。
もとは店長のためで始めたこととはいえ、奥さんを救うと同時に自分も癒されているんだろうなと感じました。
『泥濘の食卓』2巻の結末は衝撃的
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2巻のラストでは「ついにやってしまったか・・・」という所で終わりました。
自業自得だよねと思う反面、これでさらにモンスターが凶暴化することにつながります。そんな3巻も必読ですよ!
『泥濘の食卓』3巻の感想(ネタバレ含みます)
(2024/11/20 20:30:58時点 Amazon調べ-詳細)
【注意】ここより以下はネタバレ含みます!
ハルキが不幸過ぎて見ていられない
自分が憧れる女性と父親が不倫関係だというだけでも、多感な高校生にとっては辛い出来事だと思います。
ところがそれが霞んでしまうほど、ハルキの不幸は別にあります。
弱みをいくつも握られている状態
子供達が幼い頃から親同士の仲が良く、ハルキの両親からすればちふゆは抵抗なく家にあげられる少女です。
自分の息子が彼女によって学校で孤立させられたり、弱みを握られ脅されているなんて想像すらしていないでしょう。
鬱で他人と接するのを避けていた母親が、楽しそうに会話をしている姿を見たら・・・ますますハルキは家族にちふゆのことを打ち明けられませんよね。
こんな状況でハルキが自分を好きになるのか?そんな想像が出来ないほど、ちふゆの自己肯定感は突き抜けているのでしょう。
思春期男子ですら生理的に無理と思う女
よく女性は「生理的に無理!」ということがありますが、男性ではあまり聞くことはありません。
「女としては無理!」というのはあっても、女子達が言う生理的に無理というのとちょっと違います。
ただ、ハルキはそれを突破してしまいました。
ちふゆに弱みを握られたハルキ。入れ物(体)は自由が効きません、でも中身(心)は激しく拒絶していたわけで。
教室での場面を見た時、うん、こんな風に追い詰められたら、そうなっちゃうよね・・・と共感した私です。
泥濘の食卓3巻の結末は「そっちはマズイ」でした
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ちふゆ中心の感想を語ってしまいましらが、深愛の方も新たなステージへと変化しています。
愛する店長のためにと動き始めた深愛でしたが、徐々に店長の奥さんや息子のハルキ、みんなに好かれたいと思うようになったのです。
自己評価が低く、常に他人のために動いてきた深愛も少しずつ自分の欲望や感情を自覚し始めました。
ただそこは深愛ですから、間違った方向へ舵を切ってしまうのですが・・・
3巻のラストに「深愛!そっちはアカン!」と突っ込んだ私です
『泥濘の食卓』4巻の感想(ネタバレ含みます)
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【注意】ここより以下はネタバレ含みます!
それぞれの恋愛感情がドロ沼化
4巻ではサイコパス女子高生ちふゆだけではなく、ハルキの恋愛感情も闇落ちする場面あり、久々に深愛の闇深さも垣間見られる1冊となりました。
ちふゆの暴走ぶりは変わらず
ちふゆの痛いところは、相手が嫌がるのも構わず自分の感情を押し付けるところです。
まるで小学生男子が嫌がっている女の子の気を引きたくて、わざと嫌がることをやって喜んでいる様子に似ています。
ハルキが学校で孤立するきっかけと同じ状況になった際、ちふゆは気持ちが高ぶって興奮度MAXに・・・
逆にハルキにとってトラウマな場面ですから、精神的に追い詰められてしまいます。
ハルキの純粋な思いが暴走
ちふゆに追い詰められているハルキですが、相談する友達もいませんし、不倫している父親には心を開きたくないし、うつ病の母親に心配をかけるわけにはいきません。
そんな時に現れたのが、控えめで可愛らしい聖母のような深愛でした。
ところが深愛には愛する店長のために、店長の家族を幸せにして安心してヨリを戻すという望みがあります。
まさかそんな理由とは知らずに、ハルキは自分のために熱心な深愛に心を開き始めます。
深愛とは年齢が近いので、いつ恋愛感情になってもおかしくありませんよね。
深愛はいつか幸せな家庭を持つことが夢です。自分の子どもだって欲しいと思っています。
その相手は一体誰なのか・・・それを想像したハルキの心の声に驚かされました。
泥濘の食卓4巻の結末は「裏切られた気分」でした
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深愛はハルキのことを好きな人の子供、もしかしたら将来は義理の息子、ぐらいの感覚なのでしょうか。
男性として意識していないせいか無防備な深愛と、男子高校生ハルキとのドッキドキの場面が多めです。
3巻のラスト以上に、4巻のラストの方が衝撃でした。個人的にはちょっとショックですね。
『泥濘の食卓』5巻の感想(ネタバレ含みます)
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娘の深愛と母親の複雑な関係が気になる
深愛の母親はいまだに真意が分かりにくい女性です。
娘のことが嫌いで厳しく当たるのかと感じる一方、娘との2人暮らしを気に入っているとも言います。
成人しても管理が厳しい母親に対し、深愛は反発することもなく素直に受け入れているのも不思議です。
深愛自身も「お母さんは辛い思いをしてきたから幸せにしたい」と考えていて、母親と店長との3人暮らしを想像してニヤニヤすることもありました。
母親を変えてしまったのは何か?
深愛の母は外見も性格も、現在と過去ではずいぶん違います。昔は嫁いびりに耐える大人しい奥さんタイプだったのです。
義父も義母も嫁だから当たり前とこき使ったり、他人の前で馬鹿にしたり、勝手に嫁の私物を捨ててしまうといった酷い扱いをしていました。
夫は庇うどころか父母と調子を合わせて、嫁を馬鹿にするような男性です。
どんなに酷い扱いをされても我慢してきた母親が、なぜ今の性格に変わってしまったのか?
また、深愛が顔のケガをしている写真を気に入っていると言い、それをあえて深愛の部屋に置いているのか?
その辺りの理由が気になりました。
店長は深愛との関係を続けたいのか?
5巻を読んで気になったのが店長の本心です。
過去の浮気相手、そして現在の深愛には共通点があります。それは全員がお店のバイトだということ。
レジ打ちのバイトってお客様から嫌な思いをさせられること多く、特に夜間シフトに入れる若い子に働き続けてもらうのは管理職として悩みの種でしょう。
彼女達と交際したのは、よく働いて真面目な子をつなぎとめるためという理由も影響しているようです。
どこかのタイミングで全てを放棄しそう
鬱になった妻のこと、反抗的で不登校の息子のこと、距離を置こうとしても話を逸らされてしまう浮気相手のこと、そして自分が店長をしているお店のこと・・・
他人を気遣うことができる柔和な性格だけに、限界ギリギリまで自分だけで抱えてしまうタイプかもしれません。
どこかのタイミングで全てを投げて逃げ出してしまいそうな危うさが感じられました。
泥濘の食卓5巻の結末は「バレた!」でした
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言ってはいけない秘密を、最も言ってはいけない人物にバレてしまった深愛。
生命の危機に関する状況へ、追い込まれないことを祈ります・・・
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